私は現在52歳、もうすぐ53歳のおじさんだ。
ただ、一般的な52歳よりは若い自負はある。タニタの体組成計では体力年齢37歳。なぜかマイナス15歳よりは若くならないが、それでも37歳はなかなかのものだと思っている。数年前までは筋トレもガッツリやってたし、ジョギングもそこそこ走る。山だって走るし、体脂肪率は一桁台をキープ。一般人よりは絶対的に体力も筋力もある、という自信がある。
なのに。
レース後半、スピードが落ちてくると、後ろから抜かれていく。
私が走り続ける理由——過去の記憶。
運動神経が決していいわけではなかった。幼少のころから、むしろ運動は嫌いだった。
中学に入り、体力をつける目的で部活はバスケを選んだ。SLAM DUNKが流行るずっと前の話だ。バスケ漫画といえば『ダッシュ勝平』しかなかった時代。バスケに特別な興味があったわけでもなく、なんとなく決めた。当然、レギュラーになれるわけもなく、控えの練習メニューは永遠と走ること。3年間、ひたすら走った。
高校に入ると美術部へ。しかし体育の授業で長距離を走ることだけは、なぜか嫌いじゃなかった。どういうわけか、クラスの中でも上位の記録を維持していたから。誰かを抜かすこと、誰かの前を走ることが、気持ちよかった。
そして高校のマラソン大会18km。2年生のとき、全学年で25位の成績を収めた。
私は団塊ジュニア世代で、もっとも生徒数が多かった時代だ。全学年の男子だけでおそらく500人くらいはいた。その中の25位だった。体育の他の種目はピンとこないのに、長距離を走ることに関してだけは、自信があった。今思うと、心身の辛さはなく、アドレナリンが走らせていたのだろう。
25位という順位は、決して速い部類ではなかっただろう。しかし、入賞として全校生徒の前で名前を呼ばれ、初めて賞としてのメダルをもらった。
この経験が、「私は走ることが得意だ」というポジティブな思い違いにつながったのだ。その思い違いが、今も私を走らせている。
謎に速いヤツ、の正体。
レース後半で抜いていくのは、こんな人たちだ。
私より年齢が上のおじいさん、おばあさんくらいお歳を召されたランナー。ずんぐりむっくりのお兄さん。ぽっちゃりなお姉さん。「絶対お酒飲んでるだろ」っていう出っ腹おじさん。絶対自分よりトレーニングしてないように見える運動初心者のような人たち。
なんなん??
現役選手や運動習慣のある若者に抜かれるなら納得だ。でも、そうじゃない。なぜあの人たちはあんなにも軽快に走れているのか。何か走り方のコツがあるのか。フォームが違うのか。それとも私が知らない何かがあるのか。
体力も筋力も、体脂肪率も自信がある。それでも抜かれる。これが長距離の理不尽であり、面白さだ。
私の悩み——足を攣る。
正直に言う。私は足を攣る。
原因を特定したいが、特定できていない。パーソナルトレーニング、整体、ピラティス、いろいろな場所で体を見てもらうと、毎回同じことを言われる。
- 体が硬い
- 股関節が上手く使えていない
- 内転筋が弱い
- 胸椎が硬い
足攣りの原因が、そのどれかなのか、全部なのか、あるいは全然別のことなのか、わからない。
Spartan Race Beast 21kmの6km地点で攣ることもあれば、16kmで攣ることもある。どこで攣るかわからない。スパルタンレースでなければ動かさない関節を急に動かすから? 長時間の筋肉疲労に耐えられる体ではないから? オブスタクルの順番にもよる気がする。ほんとにわからない。
私の装備——おまじない一覧。
それでも走る。だから対策する。現在ランニング中に携帯しているものがこちらだ。
- ドリンク(適切な水分補給)
- ミネラル補給タブレット
- エネルギー補給食(ジェル)
- 芍薬甘草湯
- 2RUN
- 奇跡の塩
- ロキソニン
- テーピング(大袈裟なくらい貼る)
おまじない、お守りがわりだ。それでも攣る。
最近、ピクルスの汁がいい、という情報を入手した。クランプ(筋痙攣)に効くという研究があるらしい。次のレースで試してみようと思っている。
足と歩き方を、勉強した。
足攣りの悩みと向き合うなかで、足の裏や「歩く」ことについても自分なりに知識を増やしてきた。
池田光史著『歩く マジで人生が変わる習慣』を読み、『BORN TO RUN』を読んだ。ワラーチやマンサンダルにも興味を持ち、薄底で走る技術も身につけた。今ではALTRA、VIVO barefoot、Vibramに代表されるゼロドロップシューズでなければ気持ちが悪いくらい、シューズにこだわっている。厚底シューズは怖くて履けない。
ゼロドロップは足本来の動きを引き出す。かかとが上がらないぶん、自然と足裏全体で着地するようになる。フォームが変わり、体の使い方が変わった。それは確かだ。
それでも、足攣りはやってくる。
それでも、わからないことだらけ。
走り方やフォームが悪いのか。何かコツがあるのか。体重が重すぎるのか。足トレが少ないのか。もっとたくさん走れば解消するのか——いや、「たくさん走れば攣らなくなる」というふうにはもはや思えない。
ストレッチの重要性は理解している。レース前に限らず、日常的にやるべきだとも思っている。ただ、そのストレッチが自分の体に合っているのかどうか、それがわからない。間違ったストレッチを続けても意味がないし、むしろ逆効果になることもある。
だからこういう分野は、専門家に頼った方がいいのだろう。自己流には限界がある。わかってはいるが、まだ答えに辿り着けていない。
悩みに悩んで、いつも万全ではない状態で走り始める。
そして謎に速いヤツに抜かれながら、足を攣りながら、それでも前へ進む。
ただ——レース中、アドレナリンが出ると話が変わる。
足攣りより「楽しい」がまさる瞬間がある。どこまでも走れるような高揚感がやってくる。痛みの閾値が上がり、足が動く。あれはいったい何なのか。
アドレナリンがキーなのか? だとすれば、足攣りの問題は筋肉だけじゃなく、神経系や興奮状態とも深く絡んでいるのかもしれない。解明できていないが、「楽しいと走れる」は確かに実感している。
ど変態、でいい。挑戦し続けることが、答えだ。
「謎に速いヤツ」から、学ぶことがある。
あの人たちは何を持っているのか。筋肉量でも体脂肪率でもない何かを、確実に持っている。
おそらくそれは、効率的なフォーム、使い続けられる遅筋繊維、体幹とバランスの使い方、そしてリラックスして走る技術——そういったものではないかと思っている。でも確証はない。まだ謎のままだ。
これが長距離の奥深さだと思う。体力と速さは直結しない。筋肉量と完走率は直結しない。鍛えれば鍛えるほど、自分の知らない「何か」に気づかされる。
その「何か」を追い続けることが、私がレースに出続ける理由の一つになっている。謎に速いヤツの謎が解けたとき、また報告する。
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