同じトレーニングメニューをこなしているのに、調子がいい日と悪い日がある。同じ距離を走っているのに、体が動く日と動かない日がある。
それは、意志の問題でも、睡眠の質だけの問題でもない。あなたの体内時計と、ホルモンの分泌リズムが関係している。
健康リズムカウンセラーとして、このテーマを長く研究してきた。そして自分自身がいつまでもマラソンやトレラン、Spartan RaceやHYROXに挑戦する体を作るために様々な健康習慣を継続しながら、体内時計を意識することでトレーニングや生活の質が変わることを実感している。
体内時計とは何か。
人間の体は、約24時間周期で動くリズムを持っている。体温、ホルモン分泌、代謝、睡眠——これらすべてが「サーカディアンリズム(概日リズムともいう)」と呼ばれる生体時計によって制御されている。
指揮者は脳の中にいる。視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく:SCN)」と呼ばれる神経核が、光の刺激を受けて全身の時計を合わせる。朝の光を浴びることで体内時計がリセットされ、1日のリズムが始まる。
体は、時間を知っている。その時間に逆らうか、乗るかで、パフォーマンスが変わる。
3つのクロノタイプ——あなたはどのタイプか。
人によって、体内時計のタイミングは異なる。これを「クロノタイプ」と呼ぶ。大きく3つに分類される。
🌅 朝型(ラーク型)早朝に集中力と体温がピーク。午前中のトレーニングが最もパフォーマンスを発揮しやすい。
🦉 夜型(アウル型)午後から夜にかけて調子が上がる。夕方以降のトレーニングで本来の力が出やすい。
⚖️ 中間型大多数がこのタイプ。午前10時〜午後3時頃にパフォーマンスのピークを迎える。
自分のクロノタイプを知るには、ミュンヘン・クロノタイプ質問票(MCTQ)などのオンラインツールが参考になる。「なぜ朝のトレーニングがきついのか」「なぜ夜のほうが調子がいいのか」——その答えが、クロノタイプにある場合が多い。
私は中間〜朝型。早朝の山トレや早起きして走る習慣は、体内時計と合っているからこそ続けられていると感じる。逆に、深夜に強度の高いトレーニングをすると、翌朝の回復が明らかに遅い。
ホルモンとトレーニングの関係。
体内時計は、3つの主要ホルモンの分泌リズムと密接に連動している。
成長ホルモン
入眠後90分の深いノンレム睡眠で大量分泌される。筋肉の修復と成長を担う。睡眠の質が低いと、いくらトレーニングをしても回復が追いつかない。
最近ではショートスリーパーというワードが一人歩きしているが、睡眠の質に徹底的にこだわるという思想は近いと感じた。仕事中に眠気を我慢してぼーっと2時間過ごすより、メリハリをもって10〜20分仮眠した方がよっぽどスッキリして業務効率が上がる。眠気覚ましにコーヒーを飲んだり、ガムを食べたり。それも効果的かもしれないが、脳のパフォーマンスを上げるなら、眠いときに集中した仮眠をとる方が私には合っている。
コルチゾール
起床前後に分泌が高まる「覚醒ホルモン」。適切なレベルであれば集中力と代謝を高めるが、慢性的なストレスや睡眠不足で過剰になると、筋肉の分解を促進してしまう。
メラトニン
暗くなると分泌が始まり、眠気と体温低下を促す。夜間のスマートフォンや強い照明はメラトニンの分泌を抑制し、体内時計を後ろにズらす。睡眠の入口が遅れると、翌朝のパフォーマンスに直接影響する。
筋肉は、トレーニング中ではなく、睡眠中に育つ。ホルモンのリズムを壊すと、体づくりの土台が崩れる。
ちなみに、脳や体が「起きる・寝る」とスイッチするしくみには、交感神経と副交感神経の切り替えが深く関わっている。このテーマはまた別の機会に紹介したい。
今日から使える、7つの習慣。
- 起床時間を一定にする。体内時計は「起きる時間」によってリセットされる。休日も含めて同じ時間に起きることが、リズムの安定につながる。早寝早起きは私が幼稚園児だったころから言われている、普遍的な健康習慣。
- 朝に光を浴びる。起床後30分以内に自然光を浴びる。これだけで体内時計が整い、夜のメラトニン分泌タイミングも正常化する。無理やりでもカーテンを開けると、自然と起きれるようになる。
- 朝イチに白湯か常温の水を1杯。太陽の光と1杯の水が、1日の始まり。内臓を起こし、血流を促す。朝食の前に、まず水。これだけで体内時計のリセットにも一役買うのだ。
- 朝食でたんぱく質をとる。トリプトファン(肉・魚・大豆・卵に多い)は、日中にセロトニン、夜にメラトニンへと変換される。朝食の質が、夜の睡眠を決める。
- トレーニング時間をクロノタイプに合わせる。「習慣だから朝トレ」ではなく、自分の体内時計に沿った時間帯でトレーニングする。パフォーマンスと回復の効率が変わる。体を動かした心地よい疲労も、いい入眠につながる。
- 就寝2時間前からスクリーンを暗くする。ブルーライトはメラトニン分泌を最大50%抑制するとも言われる。夜間のスマートフォンは体内時計の最大の敵だ。夜になっても、日本は家の中でも街中でも明るすぎる。海外のホテルやムードのいいバーのように薄暗い照明で過ごすと、眠りやすい。
- マグネシウムを意識してとる。ナッツ・豆腐・海藻・バナナに多く含まれるマグネシウムは、筋肉の弛緩と深い睡眠を助ける。サプリメントより、まずリアルな食卓から。
明るくなったら起き、暗くなったら寝る、肉やナッツを食べる。そんな原始時代のような生活は、実はとても理にかなっているのだ。
レースと、体内時計。
HYROXもSpartan Raceも、スタート時間が決まっている。その時間に体のピークを合わせることが、レースパフォーマンスを最大化する鍵だ。
大会当日の2〜3週間前から、起床・食事・トレーニングの時間をスタート時間に合わせてシフトしていく。これを「クロノトレーニング」と呼ぶ考え方だ。大きな調整でなくていい。30分ずつずらすだけでも、当日の体の準備は変わる。
私がSpartan Race Beastやレース大会に向けて意識するのは、体を作ることと同じくらい、体内時計を整えることだ。スタート時間に体温と集中力がピークになるように、今から逆算して生活リズムを作っていく。
様々な大会で胸が踊るようなトップレーサーのSNSを見ると「この人たちは不摂生しないのだろうな」「当たり前のように体内時計がいつも整った生活を送っているのだろうな」と思う。速さの裏には、リズムの積み重ねがある。
強い体は、整ったリズムの上に育つ。眠れていない、回復できていない、栄養が足りない——それは体内時計の乱れのサインかもしれない。もし、「私のこと?」と感じたなら、健康リズムカウンセラー/生活リズムアドバイザーである筆者へご相談ください。お待ちしております。
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