プロテインをやめた日。リアルフードへの回帰。

このブログでは、HYROXのワークアウトや機材・トレーニングの話題や体験記を中心に発信してきましたが、今回からは「食」についても綴っていきます。鍛えることと、食べることは切り離せない。自身の体験から学んだことを、少しずつシェアしていきます。参考にしていただけると嬉しいです。


シェイカーを捨てたのは、血の恐怖がきっかけだった。

2021年、転勤を機にジムでの筋トレを本格的に始めた。週4〜5回のトレーニング、プロテインは1日2杯、サプリメントを複数常用。「鍛えるなら補う」を疑わなかった。結果は出ていた。体は変わっていた。だから続けた。

でも体の内側は、静かに悲鳴を上げていた。


目次

プロテイン沼に、はまっていった。

2021年7月、転勤先の近所にオープンしたジムに入会した。コロナ禍で人と会えない。単身赴任の孤独の中、ジムは数少ない居場所だった。マスクをしたトレーニーが黙々と汗を流す空間で、私も早朝トレーニングを日課にしていった。

ジムに通い始めると、自然と筋トレ系のYouTubeを見るようになった。そのうちPFCバランスやカロリー管理に興味が湧き、「筋トレをするならプロテインは必須」という考えが、いつの間にか当たり前になっていた。

EAA、BCAA、クレアチン、デキストリン、シトルリン、アルギニン——聞き慣れない専門用語が次々とSNS広告に流れてきた。「クーポンで70%OFF!」という言葉に引き寄せられ、気づけば英国の某メーカーに毎月1〜2万円を投資していた。1回25gの甘くて口当たりのいいプロテインを1日3〜4回。粉末系サプリメントを何種類も常用する、いわゆる”粉末漬け”の生活が始まった。


第一の異変。便に、血が混じった。

10月の人間ドックを受けた。「自炊もしている、筋トレもしている、プロテインも摂っている、俺の体は完璧だ」
——自信があった。

11月、結果の封筒が届いた。開けた瞬間、目に飛び込んできた一文に血の気が引いた。

「便に血が混じっている。大腸がんの恐れあり、再検査を推奨します」

翌日には大腸内視鏡検査のクリニックを探した。しかし年末にかけて予約は埋まっており、最短で空いていたのは年明け1月4日。11月8日から1月4日まで——およそ2ヶ月間、不安に押し潰されるような日々が始まった。

頭の中には常に「がん=死」という文字がよぎった。家族のこと、仕事や部下のこと、同僚の顔が浮かんでくる。何をしていても、どこか集中できなかった。”死”というものを、生まれて初めて現実のこととして感じた2ヶ月だった。

そんな中、ネットで情報を集めていると「便が硬いと切れ痔になることがある」という一文を見つけた。「どうかそうであってほしい——」と、切実に願った。

と同時に、自分に誓ったことがあった。

「もし陰性だったなら——これからの人生、もっと人と積極的に関わっていこう。ジムで話しかけづらいと思っていたあの人たちにも、自分から声をかけよう。一人で悩まず、もっと楽しもう。もっと自分を大切にしよう。」そう心に決め、”大腸がん”というワードを頭からかき消すように、毎日トレーニングに励みながら年末を過ごした。

そして2022年1月の再検査。

結果が届いたのは2週間後。封筒に書かれた一文は——「陰性」。

安堵感というより、魂が抜け落ちたような感覚だった。あの2ヶ月半が、まるで幻のように消えていった。

原因を掘り下げた。切れ痔。なぜ? 便が硬かったから。なぜ硬かった? プロテインの過剰摂取。1回25gを1日3〜4回、デキストリンやクレアチンも常用していた。腸内環境が悪化していたとしても、不思議ではない。この日を境に、プロテインの摂取量を半分に減らした。

鍛えることに夢中で、内側を壊しかけていた。


第二の異変。肝臓数値が、崩壊した。

あれから2年後の2023年、スパルタンレース3回、ボディメイクコンテスト1回、登山2回、トレラン1回、そして雑誌Tarzan企画「脱げるカラダグランプリ」で準グランプリを受賞した、もっともトレーニングをアクティブに過ごした1年の10月、人間ドックの結果で思いもしなかった結果を突きつけられた。肝臓の数値がすこぶる悪かったのだ。

AST 69(基準値30以下) ALT 102(基準値30以下)

またも「再検査を推奨します」の文字。ASTとALTをググると「脂肪肝」という言葉がすぐ飛び込んできた。「ん?俺の肝臓は、フォアグラ?」——ジャンクフードもコンビニ弁当も食べていない。お酒もほとんど飲まない。なぜ、という疑問を抱えてクリニックへ向かった。

問診が始まった。

医師「何か思い当たる原因はありますか?」

私 「毎日自炊でPFCもカロリーもコントロールしています。お酒も飲みませんし、むしろ模範的な食生活ですよ。筋トレだってしっかりやってますし。」

医師「筋トレの頻度は?」

私 (自慢げに)「週4〜5回、平日1.5時間、週末は3時間ほどです!」

医師「少し運動量が多いかもしれません。週2時間程度に減らしてみましょう。」

私 「え……2時間って、1日分ですよ?あっという間ですよ?」

医師「肝臓は筋肉の修復にも機能するので、オーバーワークは負担になるんです。」

私 「……わかりました。」

まさか、と思った。週10〜14時間あった筋トレを一旦5時間程度まで絞った。粉末サプリメントも見直し。人工甘味料などの添加物が肝臓への負担になると知り、プロテインは手作り蒸しパンの甘味料として使う程度まで減らし、そのまま飲むことは完全にやめた。

1ヶ月後の採血。数値はわずかに改善したものの、劇的な変化はなかった。正直、5時間の制限を守りきれていなかったかもしれない。2週間ごとに採血と診察を繰り返す日々が続いた。

そんな中、コロナ後数年振りに中国出張が決まった。コロナ禍以前のように、1年の半分を中国で過ごす生活に戻ったのだ。出張先では思うように筋トレができない。運動は散歩とジョギング中心。食事も現地にあるものから選ぶ。粉末サプリメントからは、ある意味”強制的に”解放された。

2週間後、帰国して再採血。

AST 19 ALT 27

正常範囲内に戻っていた。これほど如実に現れた結果に、反論の余地はなかった。筋トレのしすぎ——そして粉末サプリメントの過剰摂取が、拍車をかけていたのだと痛感した。

正直、複雑な気持ちだった。「筋トレやサプリから離れたら数値が戻った」という事実は、自分のトレーニングへの向き合い方を根本から問い直すものだった。鍛えることが体を守ることだと思っていた。でも数字は逆のことを言っていた。


プロテインをやめた、ふたつの理由。

この2つの経験から、出した結論は明快だった。

  1. 過度な筋トレは、内臓への負担が大きい。筋肉だけが体ではない。消化器も、肝臓も、同じ体の一部だ。
  2. 粉末サプリメントでなくても、十分に栄養は摂れる。肉、魚、豆製品、卵、野菜——本物の食材から摂るたんぱく質で、体は十分に応えてくれた。

シェイカーを洗うのをやめた。粉を買うのをやめた。その代わり、食卓を変えた。


リアルフードへの回帰。

「たんぱく質を摂る」という目的は変わっていない。変えたのは、手段だ。

鶏肉、サーモン、サバ、豆腐、納豆、卵、大豆。これらを食事の中心に据える。サプリメントで補うのではなく、食事で完結させる。消化の負担も、内臓への刺激も、自然と整ってくる。

朝は卵2個とオーガニックパンやオートミール、野菜スムージー。昼は鶏肉か魚をメインに、豆腐や野菜を添え玄米ご飯を食べる。夜は昼とは逆の魚か肉、パスタやそばなどもおり混ぜ、良質な脂質も積極的に摂り、好むものを頭で選んで食べる。シェイカーを振る時間が、食材を選ぶ時間に変わった。面倒だと思ったことは、一度もない。

そして1年後の2024年11月の検査結果。

AST 19 ALT 18

正常値を維持している。体の内側が、落ち着いている感覚がある。

プロテインが悪いわけではない。必要な人には必要なものだ。ただ、私には「とりあえずプロテイン」という思考停止があった。食事で摂れるのに、粉で補う必要があるのか——その問いを、ずっと後回しにしていた。答えはシンプルだった。昔からあるリアルな食材を選べばいい。


たんぱく質は、食卓にある。

そもそも「たんぱく質」という漢字、なぜ「蛋白質」と書くかご存知だろうか。

「蛋」は中国語で卵のこと(鶏蛋=鶏の卵)。「蛋白」は卵の白身、つまり卵白を指す。すなわち「蛋白質」とは、卵の白身に由来する栄養素の名前だ。完全栄養食として知られる卵が、その名の語源になっている。英語の「protein(プロテイン)」もギリシャ語の「proteios=最も重要なもの」を語源とする。

つまり、たんぱく質はもともと食材の名前から生まれた言葉だ。粉末で補うものではなく、食卓にあるものだった。語源がすでに、答えを教えてくれていた。

私自身が健康リズムカウンセラーとして、よく聞かれる。「プロテインは飲んだほうがいいですか?」

私の答えは決まっている。「まず、食事を見直してみてください。」

鶏むね肉100gに含まれるたんぱく質は約23g。卵1個で約6g。木綿豆腐半丁で約7g。納豆1パックで約7g。組み合わせれば、1食で40〜50gは難しくない。これを「足りない」と感じるなら、食事の量や質の問題であって、サプリメントの問題ではない。

粉末プロテインは、食事で摂れない状況の「補助」だ。主役ではない。主役は、毎日の食卓にある。

補うのではなく、食べる。それが、体を内側から整える一番の近道だった。

鍛える体と、食べる体は、ひとつだ。

HYROXのトレーニングは、全身を使う。スキー、ローイング、バーピー、ウォールボール、サンドバッグ——どのワークアウトも、体の機能をまるごと動員する。局所を鍛えるだけでは通用しない競技だ。

栄養も、同じだと思っている。

たんぱく質だけを「最適化」しても、体はトータルで動いている。消化器が正常に動いてこそ吸収できる。肝臓が正常に機能してこそ代謝できる。内臓を無視して筋肉だけを追いかけた私の体が、それを証明してしまった。

機材を選ぶときに「このマシンは、体のどこをどう動かすか」を考えるように、食事を選ぶときにも「これは、体のどこをどう支えるか」を考えるようになった。機能で選ぶ——それは、食卓でも同じだ。


機材も、食も、「本物」を選ぶ。

FRNZで機材を扱いながら、いつも思うことがある。

高額な公式ブランドでなくても、本質的な機能は変わらない。重さは重さだ。動きは動きだ。大事なのは、実際に体を動かすことであって、ラベルではない。

たんぱく質も同じだと思っている。高価なサプリメントでなくても、本物の食材から摂れる。消化もしやすく、満腹感もある。体に入るものが「本物」であることは、シンプルに気持ちいい。

人生100年時代を健康に走り抜くために、鍛えることと、食べることと、休むことは、対等だ。そのどれかを犠牲にして「最適化」しようとすると、体はどこかで正直に応える。私の肝臓が、それを教えてくれた。

シェイカーを洗わなくなって、気づいたことがある。食事が楽しくなった。肉を焼く匂い、豆腐を崩す感触、納豆をかき混ぜる朝の時間——体に入るものが「本物」だと、五感ごと喜んでいる気がする。鍛えることも、食べることも、本来は喜びのはずだ。

最後に、ひとこと。

この話は、あくまで私の個人的な体験だ。プロテインを完全に否定するつもりはない。合う人もいる。必要な人もいる。成分にこだわった良質な商品だってある。試供品をもらったら、今でも飲む。

加工品についても同じだ。「あれはダメ、これはダメ」と決めつけるより、お酒や嗜好品と同じように、自分の体と対話しながらうまく付き合えばいい。私が大好きなカルボナーラは、ベーコンなしでは成立しない。生クリームだって使う。

ただ——もしあなたがボディビルダーでもないなら、「筋肉が減る」ことを気にしすぎてサプリ中心の生活になっていないか、一度立ち止まって見直してみてほしい。

体は正直だ。私の肝臓が、それを証明してくれた。


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