メルカリが教えてくれた、HYROX特需の正体。

データは、正直だ。

4月、Amazonへの本格出店を見据えてFRNZの機材を中国の工場から仕入れた。ウォールボールだけで累計50個以上。まず試みたのはSNSでの個人向け販売だ。インスタグラムやスレッズで「ジムを始めたい」「機材が欲しい」という投稿を見つけては、DMで機材カタログのリンク先を送る。問い合わせに応じて商談する。地道にやっていたが、正直なかなか在庫が捌けなかった。対象がSNSに積極的に投稿する層に限られる。「機材が欲しいけど、まだ検索もしていない」潜在層には、そもそも届かない。実はその機材カタログへの導線を確保するために本Blogを開始した、なんて経緯もある。

7月19日、追加在庫として50個がさらに加わった。そこでメルカリを使うことにした。

テストマーケティングと言えば聞こえはいいが、実態はもっと切実だ。Amazonの出品を目指していたが、Sellerアカウントの登録、ブランド登録の審査に想定以上の時間がかかった。待っている間にも在庫は積み上がる。メルカリは、今すぐ動ける選択肢だった。

ただ、出品するなら観察しようと決めた。とにかく地道に、販売する商品を1つずつ出品する。価格帯・セット構成・写真での見せ方・タイトル・説明文を変えながら、閲覧数・検索数・いいね数の動きを毎日記録した。売れたら同じ商品の価格を少し上げて再出品する。売れ行きが伸び悩んだらタイトル・写真・説明文を修正し、最終手段として価格を下げる。低価格で売れ始めたら、再度価格を引き上げていく。続けること2週間。SNS営業では掴めなかった「潜在的な購入者」の輪郭を、フリマ市場のデータから浮かび上がらせる。

結果は、想像以上だった。


目次

7/13から始まり、8/6で変わった

7月13日、最初の売れ行きは静かだった。ウォールボール6kgと9kgが1件ずつ。その後も週1〜2件のペースで散発的に続いた。

8月6日、HYROX千葉が開幕した。

その日を境に、通知が止まらなくなった。

期間件数備考
7/13〜8/5(24日間)約10件散発的・単品中心
8/6〜8/17(12日間)30件超HYROX千葉開催期間・セット購入急増

購入者の住所を見ると、富山、滋賀、広島、熊本、京都、沖縄、埼玉、神奈川、静岡、横浜、兵庫、長野、大阪、愛知、千葉、東京、香川——日本列島を縦断するように注文が届いた。千葉の幕張メッセで火がついた熱が、全国のHYROXコミュニティへ伝播した。これが「HYROX特需」の正体だった。


同じ人が、また買った

データの中で、特に目を引いたのはリピート購入だ。

大阪府・A様 — 4回購入

日付購入品
8/14①ウォールボール4/6kg+サンドバッグ10/20kg
8/14②ウォールボールターゲット
8/14③ロープ
8/17ウォールボール9kg+サンドバッグ30kg

1日に3回に分けて注文し、3日後にさらに追加。ホームジムを設計しながら、一つずつ揃えていく。その意図が手に取るようにわかった。

鎌倉市・B様 — 2回購入

日付購入品
8/12ウォールボール6kg+サンドバッグ20kg
8/15スレッド

まずウォールボールとサンドバッグで試し、3日後に大物のスレッドを追加した。「使ってみて、確信して、揃えていく」。そういう買い方だ。

BtoB営業では1社あたりの単価が高い代わりに、関係構築に時間がかかる。メルカリでは接点ゼロの個人が、数万円の買い物を何度も繰り返してくれた。この非対称さは、BtoCの可能性を改めて実感させてくれた。


メルカリは、需要が価格を決める

BtoBの取引は定価が基準だ。ジムやトレーナーとの関係性の中で、価格は動かない。

メルカリは違う。価格を決めるのは、需要だ。

商品定価比プレミアム
ウォールボール 6kg+22〜34%
ウォールボール 9kg+16〜26%
ウォールボール 12kg+18〜19%
サンドバッグ 30kg+25〜27%
スレッド+19%

定価より2割以上高くても、売れた。

HYROX千葉という「火種」が生まれた瞬間、買い手の価格感度は下がった。「欲しいから買う」が、「安いから買う」を完全に上回っていた。

ある程度覚悟していた値下げ交渉は、非常に少なかった。代わりに届いたのは、こんな問い合わせだ。「ウォールボールの重心にズレはないか?」「弾み具合はどうか?」——公式機材の価格を知ったうえで、FRNZにコストメリットを感じて検討している。品質を確かめてから買おうとする、本気の購入者からの言葉だ。

一方で、説明文にノーブランド品と明記しているにもかかわらず、「これは公式C社製ですか?」という問い合わせが一定数あった。特に女性に多く、結局購買に至らなかったケースも少なくない。ブランドへの意識、「映え」への志向が購買判断を左右している——そんな肌感覚がある。機能で選ぶか、ブランドで選ぶか。これは無視できない視点だ。ただ、勝機がないわけではない。女性向けのウォールボール4kgやサンドバッグ10kgなど、軽量ラインをかわいいカラーリングで展開するだけで、ブランドの壁を崩す入口になるかもしれない。


セットにすると、なお売れる

単品より、セットが強かった。

セット構成定価比(メルカリ実績)
ウォールボール+サンドバッグ(軽量セット)+17%前後
ウォールボール+サンドバッグ(重量セット)+18〜25%
ウォールボール複数重量+サンドバッグ複数重量+6〜18%
サンドバッグ3種セット+8%

「一式揃えたい」という動機に、セット提案はまっすぐ刺さる。単品を選ぶ手間より、「これを買えばトレーニングが始められる」という体験の方が、購買の背中を押す力が強い。客単価が上がり、購入者の満足度も上がる。

FRNZにとっても、セット売りは物流面でも合理的だ。中国の工場から出荷する際、セットをダンボール1箱に収めることができれば、配送コストを下げられる可能性がある。買い手の「便利さ」と、売り手の「効率」が同じ方向を向いている。

バラ売りとセット売りの比率、組み合わせのバリエーション——その設計次第で売れ行きが変わることが、数字として見えてきた。Amazon出品に向けて、使えるデータが揃いつつある。


地図が示す、次の空白地帯

購入者の住所を地図上に並べると、傾向がくっきり浮かび上がる。

関東(東京・神奈川・埼玉・千葉)、東海(愛知・静岡)、関西(大阪・兵庫・京都)、そして沖縄・広島・熊本・香川——「西日本+関東」への集中だ。東北方面からの購入は、今回ゼロだった。

これはHYROXの開催地と、ほぼ一致する。横浜、千葉、大阪、名古屋——大会が開かれる場所に、需要が生まれる。大会を知った人が、練習したくなる。機材を探す。買う。この動線が、購買データにそのまま現れていた。

東北・北海道は、まだ誰も火をつけていない市場だ。

たとえば仙台や金沢、三沢・八戸、札幌でHYROXが開催されれば、東北・北陸・北海道からの需要が一気に顕在化するだろう。大会が生まれる場所に、トレーニング需要が生まれ、機材需要が続く。HYROXの全国展開の地図は、そのままFRNZの伸び代の地図でもある。

もうひとつ、メルカリならではの発見があった。配送先の宛名や建物名から、相手が個人なのかジムなのかがある程度わかる。今回の購入者のほとんどは個人男性とジム関係者だった。

この事業を始めるとき、正直不安だった。個人への需要が本当にあるのか。BtoBのジム向け販売はイメージできても、一般の個人が機材を買うかどうかは未知数だった。メルカリのデータは、その問いに答えてくれた。個人需要は、確かにある。特に男性。

さらに、購入される重量が面白いことを教えてくれる。9kgを選ぶ人と12kgを選ぶ人——これはOPENクラスとPROクラスの違いと重なる。HYROXの最終ステーション、ウォールボール。7つのワークアウトを超えてきた体には、6kgでさえ体感9kg以上に感じることがある。だからこそ、PROを目指す人が12kgでトレーニングしておくことに意味がある。本番の9kgに耐えうる肉体を、日々の練習で先に作っておく。購入された重量は、その人の目標と覚悟を映していた。だから購入後の挨拶には、必ず一言添えている。「トレーニングにご活用ください!」——陰ながらの応援を込めて、お取引を完了している。


BtoBとBtoCは、別の市場だ

今回の実験で、輪郭がはっきりした。

BtoBのジム・トレーナーは、関係性と信頼で機材を選ぶ。価格は安定し、まとまった数量が動く。BtoCのエンドユーザーは、タイミングと動機で動く。価格は需要によって上下し、単品でも複数でも買う。

そして両者は、補完し合う。ジムに機材が入る→エンドユーザーがHYROXを知る→自分でも欲しくなる→メルカリで買う。Amazonに切り替えれば、その流れはさらに太くなる。価格設定もテストマーケティングのデータから、より売れる価格・利益が出る価格へと精度が上がる。HYROXの普及と、FRNZの販路拡大は、同じ方向を向いている。

メルカリはあくまでテストの場だ。ただ、「需要はある」という確信が得られた。それが今回最大の収穫だった。


FRNZが本当にやりたいこと

誤解のないように、書いておきたい。

FRNZは、HYROX特需を狙って始めた事業ではない。

出発点はもっとシンプルな問いだった。地方に、ハイブリッドレースのワークアウトを練習できる場所が少なすぎる。HYROXやスパルタンレースに出たい人はいる。でも環境がない。機材がない。指導者がいない。都市と地方の間に、大きな格差がある。かつてDM相手を探すために血眼で読み漁っていたスレッズでも、その声は絶えず囁かれていた。

FRNZが提案しているのは、そのインフラを全国に広げることだ。キッズからシニアまで怪我をしにくい設計の機材を、公式ブランドの3分の1の価格で届ける。既存のジムでも、新規施設でも、導入のハードルを下げることで、練習できる場所を増やしていく。中国製への懸念を払拭するサポートが、FRNZの強みだ。

機能的な動きを、若いうちから身につける。使い続ける。それが人生100年時代を、自分の足で歩き続けることに繋がると、本気で思っている。

今回のメルカリデータは、そのビジョンへの市場からの返答だと受け取っている。特需は一過性かもしれない。だが、「HYROXをきっかけに本気でトレーニングを始めようとした人たち」が全国にいるという事実は、一過性ではない。


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